一つの大当たりを狙わない。Nomad ListからPhoto AIへ、複数のデジタル資産を積み上げた事業

デジタルツール 未分類

元記事

記事タイトル
A Cheeky Pint with serial entrepreneur Pieter Levels

掲載サイト
Stripe「A Cheeky Pint」/Pieter Levels公式サイト掲載の全文記録

出演者・創業者
Pieter Levels

公開日
2025年7月9日

元記事URL
https://levels.io/stripe-cheeky-pint-john-collison

この記事で紹介するPieter Levelsは、デジタルノマド向け都市データベース「Nomad List」、リモート求人サイト「Remote OK」、AI写真生成サービス「Photo AI」など、複数のオンライン事業を運営する個人開発者です。

Stripeの共同創業者John Collisonとの対談では、Nomad Listが年間継続収益70万ドル、Photo AIが年間継続収益60万ドルに達した事例として紹介されています。Remote OKについては、累計売上340万ドルという数字が語られています。いずれも創業者側が公開した数字であり、監査済みとは限りません。

また、Pieter本人は2026年3月、Photo AIの月間売上が10万5,000ドル、月間利益が8万ドルになったと公表しています。これも本人申告の数字として見る必要があります。

公式サイトや各サービスには、会員登録、月額プラン、求人掲載などの商業的な導線があります。

3分で要約

Pieterの最初の代表作は、2014年に始めたNomad Listです。

世界各地を移動しながら働く人にとって、次にどの都市へ行くかを決めるには、多くの情報を調べる必要があります。

生活費、通信速度、気候、安全性、空気の質、ビザ、住居費。こうした情報は、それぞれ別のサイトに散らばっていました。

そこでPieterは、世界各都市の情報を一つの表へ整理しました。最初は簡単なデータ一覧でしたが、都市の検索、比較、ランキング、会員プロフィール、チャット、現地交流などを追加し、デジタルノマドが繰り返し利用するサービスへ成長させました。

公式の創業記録によると、Nomad Listは後に月2万〜4万ドル、年間約30万ドルの収益を生むようになり、数千人の有料会員を持つサービスになりました。

その後、リモート求人を掲載するRemote OKを作ります。

Nomad Listに集まるのは、場所に縛られず働きたい人です。その人たちが次に必要とするのは、リモートでできる仕事でした。

さらに生成AIが広がると、PieterはPhoto AIを開始します。

利用者が自分の写真をアップロードすると、本人の特徴を学習したAIモデルが、さまざまな服装、場所、構図の写真を生成します。公式サイトでは、プロフィール写真、ビジネス用写真、交際アプリ用写真、商品着用画像、動画などへ用途を広げています。

この三つの事業は、商品としては別物です。

しかし、共通しているのは、情報やソフトウェアを一度作り、世界中の利用者へ繰り返し販売することです。

主要な収益モデル

Nomad Listの主な収益は、有料会員から受け取る利用料金です。

無料でも一部の都市情報を見られますが、詳細データ、検索、コミュニティーなどの機能を利用するには会員登録が必要です。現在のNomads.comには、1,500都市以上の情報を扱う会員サービスが表示されています。

Remote OKは、求人を掲載したい企業から料金を受け取ります。掲載料金は需要によって変動し、現在の公式画面では1件447ドルの例が確認できます。

Photo AIは月額または年額の課金です。利用できるAIモデル数、生成枚数、画質、処理速度などによってプランが分かれています。年払いでは月額換算9ドルからのプランが表示されています。

ポートフォリオ全体の売上は、次のように考えられます。

会員収入+求人掲載料+AIサービス利用料+広告・関連収入

一つの収益モデルに依存せず、異なる顧客と課金方法を持っていることが特徴です。

開始コスト

Nomad Listは、都市情報をまとめた簡単な表から始まりました。

大規模な旅行会社や現地スタッフを持たず、公開情報や利用者の投稿を集め、Webサービスとして提供しています。

Photo AIも、写真館、カメラ、スタジオ、撮影スタッフを保有しません。主な原価は、画像生成用のAIモデル、GPU、サーバー、決済、保守です。

Pieterは、Photo AIで利用するAIモデルの運用を外部インフラ事業者へ任せ、安定性と速度を確保していると説明しています。

ただし、小資本で始められることと、簡単に利益が出ることは同じではありません。

実際には、Pieterは多数のプロジェクトを作っており、すべてが収益化したわけではありません。公式サイトには、現在の主力事業以外にも多くの試作品や終了した企画が掲載されています。

必要スキル

中心となるのは、プログラミング力だけではありません。

Pieterの事業では、需要が生まれ始めたタイミングで、最小限の商品を早く公開する力が重要です。

Nomad Listでは、世界を移動する人が増え始めた時期に、都市選びのデータベースを作りました。

Remote OKでは、リモートワーク求人を探す人と採用企業を結びました。

Photo AIでは、画像生成AIが一般利用者にも使える段階になった直後に、AI写真館として商品化しました。Photo AIの最初の構想は、2023年2月に本人のサイトで公開されています。

また、一つの事業から得た利用者、知名度、技術、決済基盤、発信力を、次の事業で使う能力も必要です。

他人が見落としていたポイント

他人は、Nomad Listを旅行サイト、Remote OKを求人サイト、Photo AIを画像生成サービスとして見ます。

しかし、Pieterが積み上げているのは、個別の商品だけではありません。

最初に積み上げたのは、デジタルノマドという新しい働き方に関心を持つ人々でした。

その人たちが都市を探すならNomad Listを使う。仕事を探すならRemote OKを使う。自分のWebサイトやSNSへ載せる写真が必要ならPhoto AIを使う。

すべての顧客が重なるわけではありませんが、一つの事業で得た評判と発信力が、次の商品を公開したときの初速になります。

さらに、売上源が複数あれば、一つの市場が不調でも全体がゼロにはなりません。

顧客が買っているものも、それぞれ異なります。

Nomad Listでは、都市を比較する時間の短縮。

Remote OKでは、リモート人材と企業が出会う場所。

Photo AIでは、撮影せずに大量の写真を作れること。

共通するのは、情報や技術を持つことではなく、利用者が面倒な作業をせずに結果を得られる状態を販売している点です。

日本ならどう応用できるか

日本で同じサービスを三つ作る必要はありません。

参考にすべきなのは、一つの顧客層から、隣接するデジタル商品へ広げる方法です。

たとえば、多店舗企業向けに最初は「店舗閉鎖チェックリスト」を販売する。

次に、閉店タスクを管理する小型ツールを作る。

さらに、原状回復、什器買取、在庫処分、行政手続きなどの事業者を検索できるディレクトリへ広げる。

この三つは別の商品ですが、顧客は同じ店舗開発・管理部門です。

また、ホテル向けなら、業務改善ツールの比較サイトから始め、修繕管理ツール、料金変更通知、導入支援データベースへ広げられます。

重要なのは、最初からポートフォリオを作ろうとしないことです。

一つ目の商品で顧客と流入経路を獲得し、その顧客が次に困る問題へ進みます。

5つの勝ち筋フィルター

① 中央値か、外れ値か

評価:★★★★★

各事業の市場自体は新しくありません。

旅行情報、求人、写真撮影という古くからある市場を、特定の新しい顧客と技術に合わせて作り直しています。

さらに、一つの会社を大きくするだけでなく、小さな事業を複数持つこと自体が外れ値です。

② 古くからある市場か

評価:★★★★★

人は以前から、住む都市を比較し、仕事を探し、写真を撮影してきました。

新しい需要を一から教育したのではなく、既存の支出と時間をオンライン商品へ移しています。

③ 期待値1以上のサイコロを何度も振れるか

評価:★★★★★

一つの事業へ全資金を投じるのではなく、小さな製品を繰り返し公開できます。

失敗した企画は終了し、反応のあったものへ時間を集中できます。

ただし、Pieter本人には長年の開発経験と大きな発信力があります。現在の成果だけを見て、誰でも同じ初速を出せると考えるのは危険です。

④ 粗利益率は高いか

評価:★★★★★

データベース、求人サイト、AIサービスはいずれも、利用者数と同じ割合で人員を増やす必要がありません。

一方、Photo AIではGPUやAI処理費用が発生します。それでも本人の2026年3月の公表値では、月10万5,000ドルの売上に対し、利益は8万ドルとされています。

⑤ 再現性はあるか

評価:★★★☆☆

小さな商品を早く公開し、反応のあるものへ集中する考え方は再現できます。

しかし、Nomad ListやPhoto AIの具体的な成功には、市場参入の早さ、長年の発信、個人ブランドが大きく影響しています。

同じ商品を後から作るのではなく、自分が既に接点を持つ顧客層で隣接商品を探す必要があります。

どうなったら失敗するのか

最大の死亡条件は、まだ一つも売れていない段階で、複数の商品を同時に作ることです。

顧客も流入もないままポートフォリオを増やすと、売れないサービスと保守作業だけが残ります。

次に危険なのは、流行する技術ごとに方向を変え、顧客とのつながりがない商品を作り続けることです。

Pieterの事業は多様に見えますが、本人の発信、開発力、オンライン事業という共通基盤があります。

各サービスの更新、障害、問い合わせが重なることもリスクです。少人数運営では、一つの障害が他の事業の改善時間まで奪います。

早期に確認したいKPI

各商品の売上だけでなく、商品間のつながりを確認します。

見るべき数字は、既存利用者からの新商品登録率、共通メールリストからの購入率、複数商品利用率、各商品の保守時間、月次解約率です。

特に重要なKPIは、既存の顧客・読者から次の商品を買った人の割合です。

毎回ゼロから集客するなら、ポートフォリオによる相乗効果は生まれていません。

最初に取り組むアクション

最初に売る最小の商品

一つの顧客層が繰り返し使う、情報商品か小型ツールを一つだけ作ります。

たとえば、多店舗企業向けの店舗閉鎖チェックリストです。

最初の顧客候補

すでに自分が仕事や発信で接点を持ち、困りごとを理解している人を対象にします。

知らない巨大市場より、具体的な担当者の顔が浮かぶ市場を選びます。

最初の集客方法

最初の商品を購入・利用した人へ、次にどの作業で困るかを聞きます。

新しい市場を想像するのではなく、既存顧客の次の問題を探します。

投入する費用と時間の上限

最初の3か月は一商品だけに集中し、初期費用は5万円以内とします。

2つ目の商品は、1つ目の商品に有料顧客が付き、集客経路が確認できるまで作りません。

継続または撤退を判断する基準

最初の商品で有料顧客を10人獲得し、そのうち3人以上が共通する次の問題を挙げた場合だけ、2つ目の商品を検討します。

商品が増えるたびに保守時間が増え、合計利益が伸びない場合は、新規開発を止めて既存商品の整理を優先します。

この事業の本質は、多くのサービスを作ることではありません。一つの顧客との関係から生まれた情報、信用、流入を、次のデジタル資産へ何度も再投資することです。

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