AIツールを売らない。月1.5万ドル超のコンサルが「AIを使えるデータか」を診断してSaaS化する

机上のタブレットに表示された分析グラフと印刷された収支資料 未分類

元記事

記事タイトル
Building a $15k+ MRR services company to fund SaaS development

掲載サイト
Indie Hackers

著者
James Fleischmann

創業者
Günter Richter氏

事例
Umlaut Consulting / Data Maturity Lab

公開日
2026年3月18日

元記事URL
https://www.indiehackers.com/post/services/building-a-15k-mrr-services-company-to-fund-saas-development-7f368CGtm39oHEoUQPYt

Richter氏は50歳で会社員を辞め、データ・AI戦略、データガバナンス、組織変革を支援する小規模コンサルティング会社Umlaut Consultingを立ち上げました。記事では、数カ月で月間売上が1.5万ドルを超えたと紹介されています。

ただし、この売上は創業者本人へのインタビューをもとにした申告値であり、第三者による監査済みの数字ではありません。また、記事では「MRR」と表現されていますが、当時の主な収益源はSaaSではなく、日単位で請求するプロフェッショナルサービスです。したがって、一般的なSaaSの契約MRRと同じ意味で捉えないほうがよいでしょう。

3分で要約

Richter氏のキャリアはERP導入から始まり、その後BI、データウェアハウス、経営コンサルティング、データ分析、データ戦略、組織変革へ広がっていきました。約30年の経験を持ち、2025年、50歳になったことを機に独立します。

立ち上げたUmlaut Consultingが扱うのは、企業のデータ・AI戦略、データガバナンス、組織変革です。

ここで重要なのは、「AIを導入したい企業にAIツールを売る」という事業ではないことです。

企業がAI活用を進めようとすると、その前に別の問題が出てきます。

顧客データが複数システムへ散らばっている。部門によって売上や顧客の定義が違う。誰がデータの責任者なのか分からない。品質が悪い。ルールを作っても現場が守らない。

つまり、AI以前の問題です。

Umlaut Consulting自身も、データ戦略だけでなく、データガバナンスと組織変革を専門領域として掲げています。Richter氏は、ガバナンスは単なるルール設計ではなく、人々の行動を変える組織変革の問題だとも発信しています。

そして、この事例がさらに面白いのは、コンサルだけで終わらせようとしていないことです。

Richter氏は、サービス事業で得た収益を使って「Data Maturity Lab」というBtoB SaaSを開発しました。記事公開時点ではAlphaユーザーを募集しており、最初のWebアプリ自体は15〜20時間ほどで構築したとしています。

Data Maturity Labでは、企業が自社のデータ成熟度を自己診断し、時間経過による変化を追い、匿名で業界や他社と比較できる仕組みを用意しています。

つまり、

専門家が診断する
→繰り返し出てくる質問や判断を型にする
→顧客自身が診断できるツールへ移す

という進化です。

これは「コンサルの売上でSaaS開発費を稼ぐ」というだけではありません。

コンサルそのものを、市場調査と商品開発の場にしているのです。

主要な収益モデル

記事公開時点の本体は、SaaSではなくコンサルティングです。固定価格の商品ではなく、合意した予算の範囲内で日単位の料金を請求するTime & Materials型で提供しています。

したがって、現在のモデルを単純化すると、

収益=コンサル稼働日数×日額料金+協業案件の売上-創業者の稼働原価-外部パートナー費-営業費-会計・業務システム費-その他運営費

となります。

在庫も工場もありませんから、現金原価は小さい。一方、創業者自身が働かなければ売上が増えないという限界があります。

Richter氏自身も「一日に売れるコンサル時間には限界がある」と認識しており、その制約を外すためにData Maturity Labを作っています。

SaaSまで含めれば、将来的には、

収益=コンサル売上+有料企業数×SaaS月額料金-コンサル提供人件費-協業者費-開発・保守費-サーバー費-決済手数料-顧客対応費

という構造に変えられます。

強いのは、コンサルで得た知識を捨てずに、診断項目、質問、スコア、改善手順という資産へ変換できることです。

顧客が増えるたびに人を増やさなければならない商売から、一度作った診断ロジックを何社にも使える商売へ少しずつ移せます。

開始コスト

現金だけで見れば、かなり小さく始められます。

Richter氏が立ち上げ時に準備したのは、ブランド、Webサイト、契約などの文書テンプレート、会計・時間管理などの業務環境です。利用ツールとしてSage、Clockify、Google Workspace、Microsoft Office、Todoist、Claudeなどを挙げています。

SaaSについても、初期版はReplitとSupabaseなどを使って数週間、実作業15〜20時間程度で構築したとしています。

ただし、「誰でも低コストで始められる」と評価するのは適切ではありません。

この事業で最大の初期投資は、30年間蓄積した専門知識と人脈です。

また、顧客の支払いが30日後になるため、固定費が少なくても運転資金は必要だったと本人が述べています。

現金投資は少ない。しかし、専門性への参入障壁は高い事業です。

必要スキル

この事業で本当に差がつくのは、生成AIを使えることではありません。

重要なのは、データ品質、データガバナンス、業務プロセス、システム、組織を横断して、「なぜデータが使えないのか」を特定する能力です。

さらに、診断結果を100ページの資料にして終わるのではなく、何から直すべきかを優先順位付けする力が必要です。

もう一つ重要なのが、専門家の頭の中を分解する能力です。

どんな質問をするのか。何を見れば危険なのか。どの回答なら成熟度2で、どこまでできれば成熟度4なのか。

ここまで言語化できて初めて、コンサルティングを診断商品やSaaSへ変えられます。

他人が見落としていたポイント

AIブームになると、多くの事業者はAIそのものを売ろうとします。

生成AI研修、プロンプト講座、AIチャットボット、AIエージェント、社内Copilot。

しかし、企業側ではもっと手前で止まっていることがあります。

「そもそも、どのデータが正しいのか分からない」。

AIに渡す前の材料が整理されていないのです。

ここに、この事業の面白さがあります。

AIが普及すればするほど、「AIを入れたい」という経営課題が増えます。一方で、その企業の古いマスタ、Excel、部門別システム、データ定義、責任分担が突然きれいになるわけではありません。

むしろAI活用を始めようとした瞬間、それまで見えなかった問題が表面化します。

しかも、データ品質やガバナンスは新しい問題ではありません。企業が長年お金を払ってきた、古くて面倒な市場です。

他人はAIツールそのものを見ていた。しかし、この事業者は、AIを導入しようとした企業がその直前で必ずぶつかる「データを使える状態にできているか」という地味な問題を見ていました。

日本ならどう応用できるか

日本で応用するなら、最初から「データ成熟度SaaS」を作る必要はありません。

まずは、

「AI活用前データ診断」

という小さなサービスとして売るほうが合理的です。

対象になるのは、AIへの関心は高いものの、基幹システム、Excel、営業管理、在庫、会計、顧客データなどが分断されている企業です。

たとえば2週間の診断で、経営者・現場責任者へのヒアリング、データ一覧の作成、定義の不一致、品質、責任者、利用可能性を確認し、「すぐAIに使える」「整備すれば使える」「現状では危険」の3段階程度に分類します。

成果物は巨大なDX構想ではなく、今後90日で何を直すかまでで十分です。

ここから月次の改善会議、データ責任者育成、KPI定義、データ品質モニタリングへ広げれば、単発診断を継続収益へ変えられます。

そして同じ質問が何十社にも繰り返されると分かった段階で、初めてWeb診断、スコアリング、進捗管理、業界比較をSaaS化します。

サービスを売ってからソフトウェアを作る順番です。

7つの勝ち筋フィルター

① 他人が見落としている切り口があるか

評価:★★★★★

AIそのものではなく、「AIを入れられない原因」を商品にしています。

流行の一歩手前にある地味なボトルネックを取る発想です。

② 古くからある市場か

評価:★★★★★

データ品質、マスタ統一、業務標準化、ガバナンス、部門間の定義ズレは昔から企業がお金を払って解決してきた問題です。

AIによって需要が新しく見えているだけで、課題自体は古い市場です。

③ 小さく始められるか

評価:★★★★★

診断票、ヒアリングシート、レポート雛形があれば始められます。

SaaSを作る前に、1社へ手作業で販売して需要を確認できます。

④ 在庫を持たずに済むか

評価:★★★★★

物理在庫はありません。

主な投入資源は専門家の時間です。

⑤ ストック収益になるか

評価:★★★★☆

現状のコンサルだけなら人月商売ですが、月次改善支援、定期診断、成熟度モニタリング、SaaSへ展開できます。

また、一度作った診断ロジックやテンプレート自体が知的資産として蓄積します。

⑥ 粗利益率は高いか

評価:★★★★☆

在庫や仕入れがないため高粗利にしやすい一方、フルオーダーのコンサルになれば売上と人件費がほぼ比例します。

粗利益を上げる鍵は、診断工程の標準化です。

⑦ 再現性はあるか

評価:★★★☆☆

Richter氏の場合、30年の経験と既存人脈が顧客獲得に大きく寄与しており、その部分は簡単には再現できません。本人も人脈とLinkedInが成長に重要だったと述べています。

一方、「専門家が何度も行う診断をテンプレート化し、最終的にソフトウェアへする」という事業構造自体は他分野にも転用できます。

どうなったら失敗するのか

最大の死亡条件は、診断するたびに内容が全部違うことです。

顧客ごとに質問も分析もレポートもゼロから作っていたら、高単価コンサルとしては成立しても、商品にはなりません。

二つ目は、診断レポートを納品して終わることです。

「勉強になりました」で契約が終了し、改善プロジェクトにも定期診断にもつながらなければ、毎月新規顧客を営業し続けなければなりません。

三つ目は、診断サービスが売れる前にSaaSを作ることです。

ソフトウェアを作った後に「企業はこの診断にお金を払うのか」を確認するのでは順番が逆です。

この事例の強みは、先に専門サービスとして顧客と課題を持っていることにあります。

早期に確認したいKPI

見るべき数字は、有償診断化率、1社あたり診断時間、標準テンプレートで処理できた割合、診断後90日以内の改善着手率、月額伴走への移行率、同じ診断項目が複数企業で出現した割合です。

特に重要なのは最後です。

最も重要なKPIは「診断後の継続契約移行率」です。

診断で課題が見つかっても、その後の改善に顧客がお金を払わなければ、その問題は事業として十分に強くない可能性があります。

最初に取り組むアクション

最初に売る最小の商品

最初の商品は、「AI活用前データ診断」1種類にします。

期間は1〜2週間。対象業務も一つに限定し、営業、在庫、顧客管理など一領域だけを診断します。

最初の顧客候補

「AIに興味がある企業」では広すぎます。

生成AIやデータ活用の話は出ているものの、Excel、基幹システム、部門別システムが分断され、どのデータから着手すべきか決められない中堅企業を狙います。

最初の集客方法

広告は不要です。

既存の法人ネットワーク、ITベンダー、会計事務所、システム会社などを通じて10社へヒアリングし、簡易チェックリストを無料で実施します。

そこから課題の強い企業だけに有料診断を提案します。

投入する費用と時間の上限

6週間、10社へのヒアリング、外部支出30万円以内。

SaaS開発は行いません。

使うのはフォーム、スプレッドシート、生成AI、既存のドキュメントツール程度で十分です。

継続または撤退を判断する基準

10社へ打診して3社以上が具体的な商談へ進み、最低1社が30万円以上で診断を購入するかを最初の基準にします。

さらに最初の3〜5社を実施した段階で、診断項目の半分以上が共通化できないのであれば、まだSaaS化すべきではありません。

逆に同じ質問、同じ問題、同じ改善策が繰り返し現れるなら、それこそがソフトウェアにする部分です。

この事業の本質は、AIコンサルティングを売ることではありません。専門家が何度も繰り返している「企業がAIを使える状態かを判断する手順」を商品化し、最終的に人間の時間から切り離すことです。

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