2年で月商16万ドル。デザイン会社が「案件見積もり」を捨て、月額定額の処理レーンを売った

デザイン事務所 起業・副業アイデア

元記事

記事タイトル
Scaling SaaS Revenue to $160K MRR With a Simple Offer

掲載サイト
SaaS Club

創業者
Russ Perry氏(Design Pickle)

公開元
SaaS Club Podcast

元記事URL
https://saasclub.io/podcast/bootstrapping/

Design Pickleは、グラフィックデザインを案件ごとに見積もるのではなく、月額固定で継続提供する「デザイン・サブスクリプション」を広めた会社です。

2015年1月にサービスを開始し、約2年で45人のフルタイムスタッフ、月商16万ドルのMRRまで成長。その後、別のインタビューでは創業3年超でARR1,000万ドル規模まで伸びたと紹介されています。現在も事業は続いており、G2では2015年以降に300万件超のクリエイティブ依頼を処理したとされています。

なお、売上や成長数値は創業者インタビューや企業公表値を中心としたもので、第三者による監査済みの数値とは限りません。

3分で要約

創業者はDesign Pickleを始める前、約8年半クリエイティブエージェンシーを経営していました。

そこで嫌というほど経験したのが、一般的な受託ビジネスの問題です。

案件ごとに提案する。

見積もる。

契約する。

作る。

修正する。

請求書を出す。

仕事が終われば、また次の案件を営業する。

毎月売上がリセットされます。

さらにクリエイティブ業務では、顧客が途中で仕様を変えたり、何度も修正が入ったりするため、最初に見積もった工数と実際の工数もずれます。

つまり、

売上は不安定なのに、仕事量まで不安定。

そこでDesign Pickleは、仕事の売り方を変えました。

「ロゴ1点○ドル」

「パンフレット制作○ドル」

ではなく、

月額を払えば、デザイン依頼を継続して出せる

という商品です。

顧客は依頼を専用システムへ入れる。

デザイナーは順番に処理する。

終われば次の依頼へ進む。

いわゆる「Unlimited Design」と呼ばれるモデルですが、本当に無限のデザインを同時に作るわけではありません。

重要なのは、

依頼数ではなく、処理速度に上限を置いたこと

です。

依頼はいくら出してもよい。

しかし制作能力は一定。

この仕組みによって、顧客には「追加見積もりなし」という分かりやすさを与えながら、提供側は仕事量をコントロールできます。

Design Pickleは、この仕組みを月額定額にすることで、受託会社なのにMRRを持つ会社になりました。

主要な収益モデル

この事業を単純化すると、

収益=月額契約社数×月額料金-デザイナー人件費-制作管理人件費-プラットフォーム費-営業・マーケティング費-顧客サポート費

となります。

普通のデザイン会社なら、

収益=案件数×案件単価-案件ごとの制作人件費

です。

この違いは大きい。

案件型では、100万円の案件が終われば売上も終わります。

サブスクリプションなら、顧客が翌月も継続すれば売上が残ります。

さらに、月初にどれだけ仕事が来るか分からない通常の代理店と比べて、契約社数から必要な制作能力を予測しやすくなります。

つまり、商品そのものをデザインから、

「毎月一定量のデザイン処理能力」

へ変えています。

開始コスト

Design Pickleは大規模な独自システムを作ってから始めたわけではありません。

創業者は以前から、フィリピンの外部デザインチームとチケットシステムを使い、顧客のデザイン業務を処理していました。

そこに、

月額固定。

依頼キュー。

標準化された対応範囲。

というルールを加え、独立商品として売り出しました。

つまり最初から必要なのは、

巨大な制作会社でも、

高度なSaaSでもありません。

一人の顧客から継続的に発生する仕事を、一つの料金へまとめられるか

を確認すればいい。

事業が拡大してから、管理プラットフォームや組織を増やせばよいのです。

必要スキル

このモデルで重要なのは、デザイン力だけではありません。

むしろ必要なのは、仕事の境界線を決める能力です。

「何でも無制限にやります」

では成立しません。

何が対象なのか。

一度に何案件を処理するのか。

通常何日で初稿を出すのか。

どこまで修正するのか。

戦略提案まで含むのか。

コピーライティングは含むのか。

ここを明確にする必要があります。

実際、現在の利用者レビューでも、制作依頼の出しやすさや継続的なクリエイティブ供給は評価される一方、曖昧な依頼や新しいコンセプト作りでは時間がかかるという指摘があります。

つまり、あらゆるクリエイティブを売るのではない。

標準化しやすい制作業務を大量に流すこと

に向いています。

他人が見落としていたポイント

普通の受託会社は、顧客の依頼内容を聞いてから価格を決めます。

難しい案件なら高くする。

簡単なら安くする。

合理的に見えます。

しかし顧客側からすると、そのたびに、

相談。

見積もり。

承認。

発注。

請求。

が発生します。

小さなバナー1枚でも同じです。

その結果、制作作業そのものより、

「仕事を発注する仕事」

に時間がかかります。

Design Pickleは、この取引コストを削りました。

月額料金を払ったら、後は依頼キューへ入れるだけ。

一件ごとの値段を考えなくていい。

提供側も毎回見積書を作らなくていい。

つまり削減したのはデザイン時間だけではありません。

売り手と買い手の間に毎回発生していた商談そのものです。

さらに、「Unlimited」という言葉も巧妙です。

本当に無限に納品するわけではありません。

顧客が無制限に持てるのは、依頼を出す権利です。

実際の制作速度はチームの処理能力で決まる。

他人は「デザインをどう安く作るか」を見ていた。しかし、この事業者は、案件ごとの価格交渉を消し、一定の制作能力へ定額でアクセスさせれば、受託業務でもSaaSのような継続収益を作れることを見ていました。

「無制限」は、実は容量制ビジネスである

このモデルで誤解されやすいのが「無制限」です。

月額を払えば、1カ月に1,000個作ってもらえるわけではありません。

依頼は無制限。

しかし同時処理数や制作速度には物理的な上限があります。

これはジムにも似ています。

会員は何度でも来られる。

しかし全員が24時間トレーニングするわけではありません。

あるいは動画配信サービスも同じです。

見放題でも、一人が物理的に視聴できる時間には限界があります。

Design Pickleは、顧客ごとの利用量にばらつきがあることを前提に、

平均利用量で採算を取ります。

だから重要なのは「一番使う顧客」ではありません。

全顧客を平均したとき、

一社あたり何時間使われるか。

一人のデザイナーが何社を担当できるか。

ここが利益を決めます。

日本ならどう応用できるか

応用先はデザインに限りません。

条件は、

毎月細かい仕事が繰り返し発生するが、一件ずつ見積もるほどではない業務

です。

例えば、

Excel資料整形。

PowerPoint修正。

Web更新。

商品登録。

写真加工。

動画の短尺化。

採用原稿修正。

定例レポート作成。

データ整形。

などです。

通常なら、

「これ一件いくらですか」

から始まります。

これを、

月額10万円で、依頼キューから順番に対応

へ変える。

その代わり、

対象作業。

一度に対応する件数。

目安納期。

対象外業務。

を明確にします。

ポイントは「何でも代行します」にしないことです。

標準化できる小さな業務だけを定額化する。

すると見積もり工数を減らせるだけでなく、顧客側も小さな仕事をため込まずに依頼できます。

7つの勝ち筋フィルター

① 他人が見落としている切り口があるか

評価:★★★★★

制作物そのものではなく、一定期間の「制作能力」へ価格を付けました。

案件単位から容量単位への転換です。

② 古くからある市場か

評価:★★★★★

グラフィックデザインという古くからある受託市場です。

新しい需要を作ったわけではありません。

③ 小さく始められるか

評価:★★★★★

一人のデザイナーと数社の顧客から試せます。

最初から大規模システムも必要ありません。

④ 在庫を持たずに済むか

評価:★★★★★

物理在庫はありません。

主な供給能力は人の時間です。

⑤ ストック収益になるか

評価:★★★★★

月額契約のためMRRになります。

実際、立ち上げから約2年で月16万ドルのMRRまで成長しました。

⑥ 粗利益率は高いか

評価:★★★☆☆

SaaSほど高粗利ではありません。

売上が増えれば制作人員も必要になります。

一方、見積もり・営業・請求・案件管理を標準化できるため、通常の受託会社より管理原価を下げやすい構造です。

⑦ 再現性はあるか

評価:★★★★★

「反復する小口業務→月額化→キュー処理」という構造は、多くのホワイトカラー業務に転用できます。

ただし、毎回高度な企画や個別判断が必要な業務には向きません。

どうなったら失敗するのか

最大の死亡条件は、ヘビーユーザーが増えすぎることです。

月10万円で、毎月30万円分の作業を要求する顧客ばかりになれば赤字です。

だから「無制限」と言いながらも、処理速度や同時案件数で供給能力を制御する必要があります。

二つ目は、対象範囲が広がりすぎることです。

ロゴ制作。

経営戦略。

コピー。

動画。

Web開発。

すべて同じ月額で受ける。

これでは工数が読めません。

三つ目は、解約率が高いことです。

月額化すれば自動的にストック収益になるわけではありません。

顧客側に毎月十分な依頼がなければ、

「今月は使わなかったから解約しよう」

となります。

つまりこの商品は、継続的に仕事が発生する顧客だけを選ぶ必要があります。

早期に確認したいKPI

見るべき数字は、契約社数、月額単価、顧客一社あたり月間依頼数、制作時間、デザイナー一人あたり担当社数、解約率、修正回数などです。

その中でも、

最も重要なKPI=顧客1社あたり月間売上÷実作業時間

です。

10万円の月額顧客へ10時間使うのか。

30時間使うのか。

同じMRRでも経済性はまったく違います。

逆に利用量が極端に少なければ、顧客が価値を感じず解約します。

だから理想は、

顧客には十分使っている感覚があり、提供側には十分な粗利益が残る利用量

です。

最初に取り組むアクション

最初に売る最小の商品

「業務代行し放題」にはしません。

一種類の反復業務を、月額固定・一度に一件ずつ処理するサービス

まで絞ります。

最初の顧客候補

毎月同じ種類の細かい仕事が10件以上発生し、そのたびに社員や外注先へ依頼している企業です。

単発ニーズの会社は対象外です。

最初の集客方法

企業10社へ、

「毎月、少額すぎて外注見積もりを取るのが面倒な仕事は何ですか」

と聞きます。

同じ仕事が複数社から出たら、

月額固定。

追加見積もりなし。

順番に対応。

という形で3社だけ募集します。

投入する費用と時間の上限

2カ月、顧客3社、外部支出5万円以内。

専用システムは作りません。

最初はTrello、Notion、メールなどで十分です。

継続または撤退を判断する基準

3社へ2カ月提供し、

3社中2社以上が同じ価格で3カ月目も継続すること

を条件にします。

さらに、一社あたりの作業時間が想定上限を超えないこと。

もし利益が出ないなら、価格を下げるのではなく、

対象業務。

同時処理数。

納期。

を狭めます。

この事業の本質は、デザインを月額で売ることではありません。一件ごとの仕事に価格を付けるのをやめ、標準化された「仕事を処理するレーンへのアクセス権」を売ることで、受託サービスを継続収益型の商品へ変えることです。

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